豊臣秀吉の天正禁令に始まる日本のキリシタン迫害史は、そのまま殉教史でもあった。徳川幕府に引き継がれたキリシタン政策は、三代将軍家光の時代に苛烈さを増し、取り締まりと処刑による殉教が本州各地で引き起こされていく。その弾圧の刃に追われて北へと逃れ、信者たちは津軽海峡を越えて松前へと渡った。砂金採取に湧き金掘り鉱夫に寛大な松前で、穏やかな信仰生活を得たかにみえた信者たちを待ち受けていたのは、1639(寛永16)年夏、強まる迫害の中で起きた松前藩による信者106人の斬首だった。幕末から近代にかけての北海道を見つめてきた著者が徳川幕府初期に挑んだ、キリシタン殉教略史。