第一ページ目から突然に「しゃかしゃかしゃか」という擬音とともに、登場人物たちが意味なく駆け巡り(ゴキブリの走りをまねているそうです)、それを受けて「きりすとっ」という書き文字とともに人物が飛び上がります。
さらにはコマの枠線を交差しながら人物たちが舞い始める……この圧倒的な展開で『黒のもんもん組』が幕を開けます。
現代の私たちにとっても衝撃的な、このとてつもないセンスがなぜ生まれたのかを考えると、初出時の社会状況を参照したくなります。
かつて日本は社会全体で一つの大きな価値観を共有していました。
すべての人が等しく豊かになれる、という考え方で、背景には高度経済成長という日本社会の経済的発展がありました。
しかし、進歩という光は多くの陰を生み出しました。
様々な公害が発生するなど、この価値観はきしみ始めます。
そして、この画一的な価値観の呪縛から解き放たれながら新しい表現が登場し始めました。
少女漫画もこの時代に内容を深化させるとともに、多彩な表現が花開きます。
これを牽引したのは萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子、大島弓子といった作家たちですが、ショートストーリーでは猫十字社の存在が光ります。
本編が幕を上げる1978年は変化の時代の始まりにすぎません。
時代の流れは加速度を加え、猛烈な勢いで狂騒の度合いを強めていきます。
『黒のもんもん組』もこの時代の流れとともに爆発的なエネルギーを噴出していきます。