｢HER｣のレビュー・感想

「だってわたしったらもしかして、このままひたすら働いて、いずれ一人で死んじゃうんじゃないか、年をとるのが怖い、未来がこわい」。年を重ねていって、パートナーがいない人は、一か月に一回ぐらい、こんな思いにとらわれることもあるのではないでしょうか？
こんな風に、アラサーの弱気になった気持ちや、隠しておきたい気持ちを赤裸々につづったのがこの『ＨＥＲ』です。
ちょっと心がイタイけれどなんとなく元気になれる、不思議な魅力のあるマンガです。

自分にないものに憧れ、愛し、憎み、迷い、とらわれる登場人物たち。抱えている想いに対して、行動するわけではなく「私よりほかの人のほうがよほど……」と居直ったり、出会いによって気持ちの向き方がちょっと変わったり変わらなかったり。脆い独身女性の内側がほどけていくマンガです。
各々の話の登場人物たちは少しずつかかわりあっています。全員ちがうのですが、どこか共通点も。それが女性らしさにつながっているのかもしれません。読むほどに、与えてくれるものが変わっていく面白さを秘めた作品です。

短編集になっており、毎話それぞれの主人公の視点で、物語が進みます。
女性って感情的で理性的になれないことが、多々でてきしまう生き物だと思います。本作ではキャラクターが微妙に交差しながらも、それぞれが女として懸命に生きようとしています。
面倒な気持ちに振り回されたり、嬉しいことで一喜一憂したり、面倒くさい情緒に振り回されるところも愛おしいと思える作品です。

モテたい、ちやほやされたい、そんな女の子の隠れた願望や焦りがリアルに表現された短編集です。
私はその中のひとつ、可愛くて大衆受けする靴を選べない、ちょっとこじらせ気味の女子の話にとくに共感しました。自分が選ぶものが男ウケしないのではないか、男を怖がらせているのではないか、と思ったことがある女子の気持ちを代弁してくれています。