こちらの作品は寒い街でくらすふたりのお話です。
ただそれだけなのですが、このふたりのようにシンプルに生きることは、大人になって色々なしがらみが絡んでくる私たちには、難しいときもあると思います。
風景や流れる空気が澄んでいる様子が画からも伝わってきます。安野モヨコさん自身も著者の中で一番好きな作品に挙げているそうです。

短編集で読みやすいのですが、どれも独特なファンタジー要素の強いSF作品です。
自分の指から生まれた妹を、兄弟愛を超えてひとつになりたいと望む兄の話から始まり、どれも少し不思議な世界へあなたを誘い込んでくれます。気分転化に最適の素敵な一冊です。4編とも違う世界観で、きっと感性が小旅行したような気分になること間違い無しです。

大犯罪者ハローの懲役は339年。5代に渡ってハローの生まれ変わりとする赤子に罪を償わせます。これだけ見ても少し異常な事が伝わってくるかと思います。
どんな理由で生まれてきた赤子を犯罪者として、罪を償うために一生を終わらせることを美徳とする世界があるのでしょうか。世界の方針に疑問を持ったハローの周りの人が立ち上がります。
結末について読んだ人同士で話したくなる作品です。

無敗のプロボクサーが主人公です。強すぎるため勝ち続けてしまう。主人公は言います。「次生まれ変わる時は花がいい」と。勝ち続ける男の孤独や葛藤。きっと頂点に立った者だけが感じる情緒を感じることができる作品です。
男性の心の揺れ動きを感じることができるので、読後は、男性の事が少しわかったような気持ちになります。

東京の小田急線沿線を舞台に短編が７編収録されています。
全部お話が少しずつ、つながっていて、最後のお話で伏線が回収される様な感覚を覚えます。全編通して、絵から滲み出るような繊細さと、爽やかな風が吹いてくるかのような清々しさ。
終始爽やかなのに「夜を重ねる」で少し、哀しくも切ないお話を持ってくるあたりは、ハッとさせられます。